すきもの

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大手門をくぐった私は感慨に包まれる。

長い道のりであった。

 

大公より仰せつかった「肩衝」。

東山道、畿内、山陰道と求め歩き、遂に西海道対馬で手に入れた。

決して安い買い物ではなかった。

同時に動物の角で作られたという茶杓も買わされかけた。

まったく、堺のみならず、あちらの商人も抜け目がない。

 

信長公のときより世に広まった茶の湯。

銘品はもはや数十石に等しい。

助左衛門のように財を成すものもいる。

かく私もそのひとりというわけだ。

 

そう、

この献上にて大公様の覚えが良くなることは想像に難くない。

出羽の独眼竜とやらが名器を自ら割ったと聞くが、

なんと狭小なことよ。

この小さな焼物の中は、もはや大判で満たされておるというに。

 

 

「それ、こないだ利休がくれたからいらんわ」

「・・・」

「今は象牙茶杓が欲しいんじゃ、対馬の方にあるらしいんだけど、

 お主持っとらんか?」

 

 


大阪城大手門の脇には、このとき叩き割られた茶器が埋まっていると言われています。

竹茶杓『泪』のように悲哀すら含む茶の道。

みなさんも古人、古物に想いを馳せてはいかがでしょう。

(史実と異なる記載を含みます)


Rule&Analysis

 日本のメーカー、グランディングが作った和風ボードゲーム。


 グランディングは、DSやWiiなどデジタルゲームソフトを手掛ける会社であるが、2012年より

ボードゲーム業界に参入を果たしている。嬉しい限りだ。


 長らく品切れであったが、最近再販されたので購入することが

できた。

テーマは『茶器の売買』。


 『すきもの』は『数寄者』と書く。

茶道を好む人のことで、茶道具を多く所有する人のことを指す。

単純にコレクターとしての意味合いで使われることもある。

 決して『好き者』ではない。こちらの意味合いであれば、

内容的に買うものは茶器ではなかったであろう。

 ボードゲーム界から女性を遠ざけないためにも、是非とも

『数寄者』でのインストをお願いしたい。


 さて、このゲームは『数寄者』が求める茶器を、全国に出向いて購入、販売し利益を得ることが目的。

 流れは、


1.売却可能な茶器(所望品)の更新

2.買付

3.売却


これで1ラウンド。

ラウンド終了時に50両稼いでいる人が居たらゲーム終了。

このボードにある5種が今求められている茶器だ。

売れるのはこの5種類のみである。

それぞれ松、竹、梅のランクがあって最初の売れる値段が違う。


「最初の」と書いたのには理由があって、このゲームは1ラウンドが終わると、一番左の茶器カードは破棄される。そして残りの4枚が

左にスライドするのだが、このスライドの過程で、販売価格が

1ランク上昇するのだ。


「なかなか手に入らないものがあると、つい高値でも欲しくなって

 しまう」


人間心理である。


そして空いた右のスペースに新たな所望品が舞い込むというわけ。


所望品カードは43枚。茶器の種類は43種。

つまり、一度破棄された所望品は以降絶対に売れない

手元に残ったら不良在庫、湯呑みにでもするしかない


 ここで、このゲーム最も面白い「売買」について説明しよう。

表現するなら『早い者勝ちリアルタイム取引』といったところか。

 求める茶器は、このように8か所の山にランダムに眠っている。

 各々一つずつ山を選択し、「ヨーイ、ドン!」で山から欲しい

茶器をピックアップするのだ。買い物が終了した人から「終了」の宣言をする。そして、終了順に番号札が1から順に配られる。

 この番号が「売る順番」なのだ。

 素早く購入し、素早く帰ってきた人から売れる。成程。



ん、売る順番なんて関係あるの?


あなたは欲しいものが手に入った後、すぐに別の人から同じものを「もう一個どうですか?」と言われたらどうする?



購買意欲湧かないでしょ!


てなわけで一度売られた茶器は、売却価格が下がってしまうのだ。さらに最低価格(2両)のときにも売られてしまうと、これまた破棄され以降売れなくなってしまう。

価格変動制早い者勝ち売買が、見事にジレンマを形成している。

 

 山はゲーム中変わらないので、なんとなくでも覚えてられたら

有利なのは言うまでもない。しかし、この早い者勝ちルールが

なかなか覚えさせてくれないのだ。のんびりしてたら先に売られて価格が下がってしまう。

 また、待てば価格が上がるので、できれば数順売るのを待ちたいこともあるだろう。しかし、他の人に先に売られてしまえば、

やはり元も子もない。

 さらに拍車をかけるのが『天下の名品』ルール。

 これは最高売却額15両の状態で、このときは誰かが1点売ったら終了となる。つまり誰よりも早く売らないと残りは全て不良在庫。 

 

 一手早く売り捌くか、『名品』になる手番に一番に売るため、買付けにいかないでおくか…

 

 このようにゲーム中は悩みは尽きない。

茶器カードの構成は、松:2枚ずつ、竹:4枚ずつ、梅:6枚ずつ。


 松は1ラウンド待つと、すぐに『天下の名品』になるので、

利を得やすいが、初期購入価格も高く、また『名品』ルールでの

不良在庫率も高い。中には初期仕入価格が、初期売却価格を上回っているものもあるので注意。


 この類のゲームで作戦として浮かぶのは、「先物取引」だろう。

 このゲームでの成功率はどれくらいになるのか?


 まずこのゲームはテンポが速い。おそらく5~7ラウンド程度で

誰かが50両になる。つまり集めていた茶器が出現する可能性は

贔屓目にみても1/6くらいであろう。決して成功率は高くない


 しかし爆発力は侮れない。

 まず、先物に必要なのは枚数。適しているのは「梅」である。

つまり同一の「梅」を複数所持すること、あるいは買ってなくても山を覚えておくこと。


 例えば、ある「梅」を4枚所持。仕入れ値は1枚当たり1~3両なので、平均して総額8両。「梅」は初期売却価格:4両。この時点でも8両の儲けだが、一巡待てば6両で売れるので、儲けは16両になる。


 このゲームは初期所持金が5両であり、毎ラウンド5両の給金が

ある。何も買わなくても9ランドで終わる計算だ。実際勝負がつく

ころには給金だけでも計30両くらいになっているので、実際は

取引にて20両程度の利益を上げればいいのだ。


 いかに凄い稼ぎかわかるだろう。

 出遅れた人は狙ってみるといいかもしれない。


 50両を複数の人が超えたら、単純に所持金で勝者が決まるので、お金は有り過ぎるということはない。世の常である。

 日本製アナログゲームは、市場の問題からかシンプルなカードゲームが多い。勿論それはそれでいいのだけれど、海外のような

豪華なコンポーネントの中量級ゲームも作られ始めたらいいのに、と常々勝手に思っている。

 この『すきもの』やTAGAMIGAMESさんの『オレカジ』のようなゲームも、これからの日本アナログゲーム界で盛んになると

いいな、と思う。