さてmory少年とT君が5版のスターターを購入してほどなく、他の友人たちもマジックを購入し始めた。
最初の頃、皆は自分がどれだけ大きいクリーチャーを持っているか自慢しあった。マナレシオ、所謂コストパフォーマンスなんて概念は、ランドセルを置いたばかりの中坊どもの頭には毛頭無い。
大きさこそ正義、なのであった。
先述したマイフェイバリット『奈落の王』の7/7は、その中でも頭ひとつ抜けていた。それもそのはずで、実は『奈落の王』は5版の中で、P/Tだけなら四天王として君臨していたのである。彼を超えるクリーチャーは『サルディアの巨像』『大地の怒り』『リバイアサン』だけであった。
しかも飛行とトランプル持ち。クリーチャーを毎ターン生贄にするデメリットも、数回殴れば勝てるので大したデメリットではないと思っていた。対戦中にクリーチャーが睨み合いにあり、たくさん並んでいたことも追い風であった。
ちょっとすると皆は「大きい生物にはデメリットがある」ことに気付く。まわりの友人が持っていた中で、『奈落の王』に次いで大きかった、『ジョータル・ワーム』や『大海蛇』のデメリットはかなり大きいと感じていた。
「サイズが大きければデメリットがある」
この概念は、ゲームの仕様上当然だな。
と、思っていた矢先であった。
M君がすごいのを当てたと言った。
見て叫ぶ。「な、なんてずるいカードだ!」
それは、7/6という『奈落の王』に肉薄するサイズにも関わらず、一切デメリットが無かったのである。書かれているのはフレーバーテキストのみ。そこには「氷河期の災厄の象徴」と書かれていた。
こんな強いクリーチャーはそりゃ災厄にもなるわ!
と、しばらく皆の憧れ、プリマドンナになった。
もはや説明不要
「甲鱗様」である。
シャークトレードに用いられる最悪の象徴であるが、マジックファンからはカルト的な人気を誇る。そのP/Tにちなんで、7月6日は「甲鱗様」の日、とまで言われている。
これにはサラダ記念日も真っ青だ。
このワームが持っていたデメリットは、馬鹿高いマナコストと、そのくせバニラであることなのだが、我々がこの事実に気が付くのはもう少し先である。
N君なんかは、
「昨日夢でブースターから甲鱗のワームが沢山でた!」
と話していたこともあった。
まごうことなき悪夢である。
甲鱗のワーム以外にも大きいものはあった。デッキである。
当初は、買ったままの5色60枚のデッキで遊んでいたのだが、ブースターを買っていたM君やB君は、それらのカードも全てデッキに投入していた。つまり私やT君のデッキに比べてうず高くなっていたのである。
そのデッキの中には甲鱗様を始めとする多くのカードが入っていた。B君は小6ときに塾で目撃した『ケルドの大将軍』も持っていた。彼らの持つその勇壮な姿を羨ましく思ったものだ。
しかし、ゲームに姿を現すことは殆どなかった。
当然だ。
土地は増えていないのだから。
彼らのビックデッキは、このゲームで最も大切な「マナ」を出す土地の割合が劇的に低いのであった。M君が、初手から甲鱗様や「大喰らいのワーム」を抱えたうえ、土地が手札になく悶絶しているのを幾度となく見た。
そんなこんなで彼らの巨大なデッキより、スターターまんまの我々のデッキの方が勝率が高かったのである。
当時「まるで塔みたい」と揶揄していたが、まさか数年後に「バベル」と呼ばれる200枚超えの構築デッキが登場するなんて、夢にも思っていなかった。
彼らは時代を先駆けていたのだ!・・・うん、違うね。
相変わらずルールはめちゃくちゃであったが、何回かゲームをして少しずつ分かってきた。土地の割合の問題に気付いたM君、B君らは、取り敢えずデッキをシェイプアップして60枚にした。こうなるとあちらの方がデッキパワーは高くなった。
次回はちょっとルールが分かってきたころの対戦について。そこには『奈落の王』に次ぐ、心のカードとの出会いがあった。